訪問日:2024年2月9日(金)
卓袱料理とは
長崎県長崎市発祥という、和洋中の要素が合わさった長崎独自のコース料理「卓袱料理(しっぽくりょうり)」。
長崎の食文化は元々魚やサツマイモなどの地場で採れた食材を食べる素朴なものだったそうですが、古くから中国や朝鮮半島との交易はあったものの、1571年にポルトガル船との貿易のために長崎港が開港されてからは、様々な食材・料理が入ってくるようになり、南蛮文化の中心として急速に発展。
鎖国後にも長崎だけは国際貿易都市としてオランダ、中国との貿易が行われていたため、オランダからは様々な西洋料理が伝わり、長崎には和洋中が合わさった煌びやかな「和華蘭(わからん)グルメ」の文化が開花し、「卓袱料理」はその代表格。
「卓」はテーブル、「袱」はテーブルクロスを意味する言葉で、「卓袱料理」は日本料理で用いられている膳ではなく、大皿に盛られた料理を円卓を囲んで各人が小皿に取り分けて味わうというスタイル。
「卓袱料理」の正確な起源については定かではないようですが、ルーツとされているのは長崎で暮らしていた中国人(唐人)が客人を招いてもてなした料理や、1654年(承応3年)に黄檗宗を日本に伝えた中国の禅僧隠元隆琦が長崎に来航した際にもたらしたという精進料理の「普茶料理」など。
中国人は一つの大きな丸いテーブルに料理を並べ、上座も下座もない円卓を身分の分け隔てなく囲み、和気あいあいと食事を楽しんでいたそうで、「卓袱料理」にはその作法が受け継がれているとのこと。
普茶料理は葛と植物油を多く使った濃厚な味、長方形の座卓を4人で囲み皿に乗った料理を各人が取り分けるというスタイルが特徴。
「卓袱料理」はこれらのルーツに、日本料理や西洋料理の食材・調理法も取り入れ、和・華・蘭をミックスした長崎独自のスタイルとして発展していったといわれています。
身分の上下に関わらず円卓を囲むことができ、簡単で合理的なため、特に宴席で好まれるようになり、時代とともにさらに洗練され、今でも長崎における郷土料理の代名詞として愛され親しまれているとのこと。
「卓袱料理」の基本スタイルは、中国風の朱塗りの円形テーブルを使い、料理は小菜(小さいお皿のこと)、中鉢、大鉢など様々な大小の皿に人数分が盛りつけられますが、まずは乾杯より先に各人に「お鰭(ひれ)」と呼ばれるお吸い物が提供され、女将の「お鰭をどうぞ」の言葉から始まるのが特徴。
「お鰭」は現在では様々な具材が入っていますが、元々は鯛の胸ビレが入っていたそうで、この言葉と椀には「お客様一人に対して鯛一尾を使っておもてなし致します」という心意気を伝え、お酒をいただく前に胃をいたわる心配りも込められているとのこと。
お鰭の後は食べ方などの決まりはなく、朱塗りの円卓に並べられた刺身、湯引き、煮豆、長崎天ぷら、ハトシ、豚の角煮(東坡煮)など、季節の食材を使った多彩な料理を、お箸を返したり取り箸を使わず直箸で取り分けて、好きなように味わうのが卓袱料理の楽しみ方。
料理の種類によって出る順番は決まっていますが、 使われる料理に定番はあるものの、決まった型式のものではなく、お店によって特色が出るのがならわしとされているそうです。
長崎卓袱浜勝

今回訪れたお店が、長崎県長崎市鍛冶屋町にある卓袱料理専門店『長崎卓袱浜勝』。
こちらは1962年(昭和37年)7月22日に長崎市鍛冶屋町にて「とんかつ浜勝」を創業したことに始まり、現在ではちゃんぽんのチェーン店として全国でお馴染みの「長崎ちゃんぽん リンガーハット」をメインに運営している「リンガーハットグループ」のお店とのこと。
『長崎卓袱浜勝』は1968年(昭和43年)11月17日に「郷土料理別館浜勝」としてオープン。
以前は銀座にも店舗を展開していたそうですが閉店し、現在では長崎市鍛冶屋町にある総本店のみのようです。
「卓袱料理」は本来複数人で食べるものであり、品数も多く高価ですが、こちらのお店ではお手軽な量と価格で一人から楽しめる卓袱料理『ぶらぶら卓袱』を提供しているので気になり、今回初訪問。
アクセス
場所は思案橋駅から徒歩3分くらいの距離。
駐車場は近隣コインパーキングを利用。
混雑状況
この日は平日の金曜日、お店には開店時間の11時に訪問。
今回は約1カ月前に食べログでネット予約をしておきました。
この時店内はお客さんが少なくて空いていましたが、予約はかなり入っているようで、途中からは団体っぽいお客さんも入っていました。
メニュー・商品ラインナップ


メニューは公式サイトに一覧が掲載されています。
今回はネット予約時に『ぶらぶら卓袱』を注文済です。
感想

【ぶらぶら卓袱】4800円(税込)
今回は同行者と2人での訪問で、それぞれ「ぶらぶら卓袱」を注文しましたが、こちらでは大皿にまとめてではなく1人用に盛り付けて提供されます。


まずはお鰭から。
鯛の身や白いお餅、モッチリした独特の弾力ある食感が面白いピンク色の玉はんぺんなどが入っており、優しい和風出汁が効いていて美味しかったです。

次は白いんげん豆の蜜煮とクジラの尾の湯引き、刺身盛り合わせ(鯛、カジキ、ブリ)、口取り盛り合わせが一気に来ました。

口取り盛り合わせは肉・野菜・魚など、海の幸と山の幸の両方を使用した料理を彩りよく1枚の皿に盛り合わせたもの。
店員さんの説明によると今回の内訳はカレイの西京焼き、お肉(ロース)、エビの芝煮、二色卵、キビナゴ甘露煮、菜の花のからし和え、炊き合わせなど。
全体的に素材の美味しさを活かした優しめの味付けで、特に上がホロッと下はプリッと食感で甘めの味付けの二色卵が美味しかったです。

刺し身は鯛がコリコリの歯応えある食感で旨味が濃く、カジキとブリはしっとり食感で程良い脂の乗り。

次はエビのすり身を食パンで挟み、油で揚げて作る料理「ハトシ」。
こちらは明治時代に清国から長崎に伝わった料理といわれており、中国語では「蝦多士(ハートーシー)」と書くそうですが、「蝦=エビ」、「多士=食パン」という意味になるそうです。
元々卓袱料理の中の一品として食べられてきましたが、次第に一般の家庭や飲食店でも作られるようになり、現在ではファーストフード感覚で食べられる身近な料理として街中で店頭販売もされています。
トーストはサクサクで香ばしく、中はプリンとした食感で海老の味わいが広がり、サイズは小ぶりですが油のこってり感があって、見た目よりも食べ応えがあります。

次は「豚の角煮」、こちらは今では家庭でも作られる馴染みのある料理ですが、卓袱料理では「東坡煮(とうばに)」という名前でも知られていています。
元々は中国の「東坡肉(とんぽーろ)」という料理が原型で、それが和風にアレンジされて卓袱料理のコースの中の代表的な料理の一つになったそうです。
全体はホロッと、脂身はとろける柔らかさ、味付けは塩気控えめで甘さが強く、こってりと重厚な味わい。

角煮と共にご飯とお漬物も提供され、こちらはおかわりも可能とのこと。

最後は白玉と桜の花の塩漬け入りのおしること水菓子(柿寄せ)でした。
本来の卓袱料理とはスタイルが異なるものの、卓袱料理での定番料理や雰囲気も楽しめ、量や美味しさにも満足、良い思い出になりました!
ご馳走様でした!
公式サイト等
公式サイト
食べログ
長崎卓袱浜勝
050-5869-1662
長崎県長崎市鍛冶屋町6-50
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